東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 押山研究室

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻

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I-2-(3) SiO2での量子論的原子素過程

現在のわれわれの電子的生活を支えているのはシリコンテクノロジーですが、シリコンが半導体デバイスとして働くためには、その絶縁膜SiO2と、キャリヤーを生み出す不純物ボロン(B)が欠かせません。近年の極限的デバイス微細化をさらに押し進めるためには、不純物ドーパント原子のミクロな振る舞いを科学的に明らかにし、得られた知見を有効に活用することが不可欠です。

なかでも、シリコン酸化膜、SiO2中の不純物B原子の拡散は、トランジスタの基本的特性を左右する重要な現象として問題になっています。当研究グループでは、シリコン酸化膜中およびシリコン/シリコン酸化膜界面のBの拡散について密度汎関数法計算により、その拡散の微視的機構を解明しました。[Physical Review Letters, 90, 075901 (2003); Physical Review B 68, 184112 (2003); 第27回半導体物理国際会議招待講演(2004年)]

図1[図:SiO2中のボロン原子の拡散。SiO2は赤紫丸のSi原子と朱色丸の酸素原子が結合を作った構造である。水色丸のボロン原子は、周囲の酸素原子と結合を作ったり、壊したりしながらSiO2中を拡散していく。]

計算でわかったことは、SiO2が形成されているSiがn型かp型かにより、B原子は周囲に電子を余分に引き付けたりあるいは電子を排除したりすることです(様々な荷電状態)。そしてその荷電状態の違いにより、B原子は周囲の酸素原子とバラエティ豊かな結合を作ります。たとえば、+1の荷電状態の場合、Bは3個の酸素原子に囲まれていて、SiO2の中で、BO3的形態をとっています。強いBO結合があるので、この構造は安定です。その後、B原子は酸素原子との結合を壊さずに、BO複合体として拡散していきます。このような複合体の存在によって、広い範囲にわたって共有結合を形成することが可能になるので、拡散のエネルギー障壁が低下します。計算で得られたエネルギー障壁は2.5eV程度で、実験とよく一致しています。

また、シリコン/シリコン酸化膜界面におけるB不純物の振る舞いを調べてみると、界面付近に酸素原子が存在しないときにはB原子はシリコン基板側にとどまるのに対し、酸素原子が存在するとB原子はシリコン基板から酸化膜側に拡散してBO複合体を形成することがわかりました。こうした物質科学的知見は、現象の原子スケールでの制御に大変役にたちます。

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