東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 押山研究室

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻

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I-2-(2) 炭素ナノチューブの原子空孔

炭素ナノチューブの原子空孔は、通常の物質の原子空孔とは異なる性質を示します。それは六角形の炭素の並びに起因しています。単原子空孔の場合、周囲の3個の炭素原子の内の二つは、近づいてボンドを再構成することができますが、もう一つの原子はどうしても余ってしまいます。三原子空孔の場合も同様です。それに比べて二原子空孔では、周囲の4原子はうまくボンドを再構成することができます(図)。その結果、複数原子空孔の生成エネルギーは奇数原子空孔のそれに比べて低いという珍しい状況が出現します[Physical Review B: 77, 165405 (2008).]。

図
炭素ナノチューブ中の原子空孔の安定構造:
(a)、(b) 単壁ナノチューブの二原子空孔。単壁ナノチューブの(c)線状六原子空孔と(d) 円状六原子空孔。
二重壁ナノチューブの (e) 線状六原子空孔と (f) 円状六原子空孔。

さらに大きな原子空孔の場合は、チューブの形状そのものが変化します。図の(c)と(d)はいずれも、単壁炭素ナノチューブ中に生成された六原子空孔ですが、(c)は線状に6個の原子が消失した場合、(d)は寄り集まって消失した場合です。線状に消失すると、周囲の原子はボンドを再構成し、完全に穴を修復してしまいます。結果として、やや細くなった完全ナノチューブが出現します(細化)。寄り集まって六原子が消失した場合はこうはならず、円形の穴ができます。従って(c)の方が(d)よりもはるかに安定な構造です。ところがこの状況は二重壁炭素ナノチューブでは一変します。炭素壁間の斥力で細化が抑制され、円形チューブの方が安定構造となります。この状況は、高分解電子顕微鏡でも観察されています。チューブという特異な構造のために、原子空孔が母体物質の形状自体を変えているという例です[Physical Review B: 81, 205542 (2010)]。

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