I-3-(3) 表面・界面構造とその電子的性質
半導体と異種物質の界面は、電子デバイス構造の特性を決める重要な要素であると同時に、多層膜構造を形成するエピタキシャル成長の舞台でもあります。
Si と Ge は同じIV族半導体ですが、格子定数が約4%異なります。その結果、薄膜が島状の形態をとり、転位などの欠陥ができやすく、ヘテロ構造を作成するのに困難があります。しかし、水素などをサーファクタンとして用いることにより、薄膜が層状に形成され、得られたヘテロ構造でのストレスが電子状態を改変し、移動度の高いデバイス作成の可能性が明らかになってきました。図は、高精度の実空間密度汎関数法(Real Space Density Functional Theory: RSDFT)計算により、界面に5員環と7員環のペアが形成され、これが界面構造を安定化させることを明らかにしたものです。様々な原子構造の可能性を探索した結果、このペア構造(転位芯構造)が最低のエネルギー値をもつことがわかりました。また、このペア構造により周囲の原子が緩和し、それが表面上で走査型トンネル顕微鏡(Scanning Tunneling Microsope: STM)により検出できることも明らかになりました。[Physical Review B: 81, 205309 (2010)]
[図:Si(100)基板上のGe薄膜の様々な構造の断面図。界面に5員環と7員環のペアが形成されている構造は、そのペアが存在しない、2x1 、2x24などの構造より、フィルム・エネルギーが低くなり、Ge薄膜厚が12原子層以上になると、安定な最低エネルギー状態となる。
[図:ペア(転位芯構造、Dislocation Core 構造)B5を表面から、STMで観測した場合のシミュレーション図。上図がフェルミ準位よりも下の電子状態からの寄与であり、下図はフェルミ準位よりも上の電子状態からの寄与。]
また、界面での欠陥形成に的を絞った密度汎関数法計算を実行しました。その結果、Si基板上のGe 界面での原子空孔は、バンドギャップ中にトラップ準位を形成しないことがわかりました。またアクセプターとして働く可能性も明らかになりつつあります。これは、圧縮歪のかかったGe での原子空孔では、周囲の原子が強く再結合(rebond)するためです。 [Physical Review B: 77, 045308 (2008)]
Ga、In 原子などのIII族原子と窒素原子との化合物半導体は、そのバンドギャップの変化が可視領域の波長を全てカバーする点、また従来のヒ化化合物に比して、環境に優しい元素を使っている点において、ポストSi 材料とも目されています。ひとつの問題は、GaNのバルク結晶がないために、エピタキシャル成長のための基板が存在しない点です。
当研究グループでは、GaN格子整合している金属 ZrB2 に着目し、GaN/ZrB2 の界面構造と電子状態を密度汎関数法計算で調べました。その結果、Zr面に最初に窒素がボンドを作るとエネルギー的に安定な界面が形成され、しかも金属/p型半導体界面ではオーム性接合が形成され易いことがわかりました。[Applied Physics Letters: 83, 2560 (2003)]
酸化アルミニウム Al2O3 に、ある特定の金属元素が不純物として混ざると、それはときに美しい赤色を示してルビーとよばれ、あるいは金属元素の違いにより、様々な魅惑的な青色を示してサファイアとよばれます。ピュアな酸化アルミニウム自身は透明な絶縁体であり、堅牢であることより、エピタキシャル成長の基板として重宝されています。エピタキシャル成長はいまや原子スケールの制御のフェーズに突入しており、この宝石の表面を原子スケールで理解することが重要になってきました。酸化アルミニウムの典型的な表面は、C面[(0001)面]、R面[(1-102)面]、A面[(11-20)面]です。それぞれについてAl原子がリッチな表面、酸素原子がリッチな表面など、様々な可能性がありますが、これまでこの表面の原子構造の安定性、電子状態について、量子論のメスは入れられてきませんでした。図は、酸化アルミニウムC面の原子の並びと、様々な緩和構造の安定性を、密度汎関数法計算で明らかにしたものです。サファイア基板上の結晶成長の科学は新しい局面に突入しました。[Physical Review B: 82, 155319 (2010)]
[図:酸化アルミニウムC面のAl原子がリッチな表面の原子配置。赤が酸素原子、緑がAl原子の位置を示している。Al原子リッチ表面、酸素原子リッチ表面の表面エネルギーを計算することにより(図)、表面でもAl:O=2:3の化学定量比が満たされている表面が安定なことがわかった。