東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 押山研究室

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻

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I-1-(2) 半導体ナノ構造の物性・機能

私たちの生活を支えている半導体テクノロジーは岐路に立っています。今までは、微細化・高集積化を追及することによって、電子デバイス、光デバイスの高性能化が達成され、それにより様々な便利な機器が開発され、人類の生活の質が大きく変化してきました。しかし、微細化・高集積化はすでに限界に近づいています。次世代テクノロジーでは、新たな動作原理デバイス、新たな構造体、新たな材料を、従来のテクノロジーと融合させることが必要です。

一つの可能性は半導体ナノ構造です。図は直径 7.6ナノメートルのシリコンのドット(クラスター)です。数十ナノメートルの直径のナノドットは、すでに実験的に作成され、メモリーなど様々なデバイスに使われ始めています。その際に重要な量は、ナノドットへの電荷注入のエネルギーです。実験的にナノドットを実際作成し、そうした物性値を計測することは、高度の技術が必要ですので、最適なナノドットのサイズ、形状を設計することは容易ではありません。量子力学の第一原理に立脚した計算により、そうした物性値が精度よく求められれば、そうしたデバイス設計は格段に進みます。

図
左は直径7.6 ナノメートルのシリコン・ナノドット。10,701個のSi原子から構成され、周囲は1,996個の水素原子で覆われている。電子密度の雲が示されている。
右はシリコン・ナノドットの第一励起エネルギーのドットサイズ依存性。

電子の注入エネルギーは電子親和力、ホールの注入エネルギーはイオン化エネルギーに対応します。また物質のバンドギャップ(第一励起エネルギー)は、それら二つのエネルギーの差です。密度汎関数理論における現在の近似(局所密度近似、一般化勾配近似)では、このバンドギャップを正確に計算することができず、バンドギャップ問題といわれています。ですので、ナノドットへの電荷注入エネルギーを求めることは、バンドギャップ問題を解決するという、計算物理の問題と直結しています。図には局所密度近似での、シリコン・ナノドットの第一励起エネルギーを、ふたつの異なるやり方で計算したものが示してあります。これらの計算値の解析により、ギャップ問題の解決の糸口が見つかります [Journal of Computational Physics: 229, 2339 (2010)]。

また、シリコン・ナノワイヤーは次世代トランジスターの主要構造体になると目されています。それは微細化に伴う、漏れ電流の制御、弾道伝導による特性の向上などの理由からです。より高性能のトランジスターのためには、どのような結晶方位に沿ってワイヤーを作るべきか、ワイヤーの断面形状は、その太さは等々、わからないことが山積しています。量子論に基づく計算科学の果たす役割は増大しています。

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